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第一章:日常想果T
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見上げてみると透き通るほどの青い空が広がっていて。
春の暖かい日差しが俺を柔らかく照らしている。
「まぁ・・・最高の天気ってこと」
視線ゆっくりとを地上に戻す。
すると何も無い空とは間逆で一面の人混。
それこそ男女で練り歩く若者から親子連れまで老若男女多種多様だ。
それもその筈、ここはこの辺りで一番大きなデパートだから。
しかも今は昼下がり真っ盛り。
この時間帯でこのデパートが混んでいなかった事なんて今まで無いと思う。
つまり今俺の目の前に広がっている光景は酷く当たり前という訳だ。
今朝の新聞の中に挟まっていた一枚のチラシ。
恐らくここに着ている人の大半はそれを見て今日の日課を組んだのだろう。
まぁ主婦みたいな人はここに訪れるのが習慣になっているのかもしれないが。
少なくとも俺はここに毎日来るようなことはしないしする必要も無い。
しかしチラシの内容に完全に釣られた彼女。
俺は詳しく内容を読んだ訳では無いので良く分からないが。
少なくともあの人の今日の予定を決めるには十分過ぎたらしい。
まぁ当然オチとして「先着○○名様のみ」という表記を見逃していたんだけど。
そんな訳で結局目的を達成出来なかったため骨折り損になったと。
全く、人混みを付き合わされるというのは普段の3倍は疲れる。
そして挙句の果てには八つ当たりされるという始末だし。
そんなこんなで俺はさっさとあの人を振り切ってベンチで一休みしているという訳だ。
しかし今日は本当に良い天気だとしみじみ思う。
世間的には春が来たと言われていたが最近は肌寒い日が続いていた。
しかしベンチで休んでいる俺にとっては長袖が鬱陶しいと感じるほど暖かい。
でも湿度はそんなに高くは無いから「あくまで心地よい」温かさだ。
このまま少しだけ昼寝でもしようかという考えが頭の中を過ぎった時。
不意に人込の中に居る女性と目が合った。
いや正確に表現するならば「合ってしまった」だろうな。
更にもう少しだけ詳しく説明するならば「俺は合わせたく無かった」という。
まぁどちらにしても合ってしまった以上は遅いけど。
その女性は俺を認識するや否や物凄い勢いで人混みを掻き分けてくる。
掻き分けるというか突き飛ばす吹き飛ばすの類だが。
大衆の流れという概念を完全にぶった切りながらこちらにズカズカと。
結局その女性は理解出来ない程のスピードで俺の元に辿り着いた。
しかし流石にあの強行には辛いものがあったのか肩で息をしている。
そんな女性の両手には溢れんばかりの買い物袋。
一体どういう理屈でこんな細い両手で持てているのだろうか。
「はぁ・・・ぜぇ・・・何で・・・こんな所で休んでいるのよ馬鹿咲夜!!」
この息も絶え絶えに俺の名前を叫ぶ女性の名前は一之瀬里桜。
まぁ説明するならば俺の一歳年上のお姉さんだ。
「いきなりなんですか・・・里桜姉さん・・・」
「買い物中に急に消えられたら誰だってびっくりするでしょう!?」
一部の通行人が興味があるような目でこちらを観察しているのが視野に入る。
まぁ俺も客観的に考えれば女性の叫びが聞こえれば何事かと思うからな。
「とっ・・・とりあえず座って落ち着きましょう!!」
このまま羞恥プレイというのは正直恥ずかしい。
というか何で俺はこんな所で説教をされかけなくてはいけないのだろうか。
「とかなんとか言ってまた逃げる気じゃないでしょうね・・・?」
俺の信用は買い物中に少し休憩していただけで地に落ちていた。
いやだって仕方が無いじゃないか。
・今朝のチラシに釣られて来たは良いけど肝心の品が個数限定で買えない。
・里桜姉さんはそれにご立腹して消耗品をまとめ買い。
・荷物は増える一方。
・休日にも関わらず姉さんの気まぐれで連れ出された俺の結末。
そんなものは誰にだって容易に想像出来るから。
荷物持ちにされる前にさっさと逃げるだろう常識的に考えてさ。
「咲夜は・・・」
隣に腰を下ろしていた里桜姉さんが青い空を見上げながら不意に呟いた。
太陽の透明な光が姉さんの黒髪を美しく照らしている。
「咲夜は・・・」
何だか意味有り気に言うので次の言葉を待ったんだけど。
どういう訳か姉さんからその後に続く言葉を聞くことは出来なかった。
こうして日常という名の歯車は静かに永延と廻っていく。
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